蕎麦切り包丁/安来鋼のお話

蕎麦切り包丁の素材として用いられている鋼/安来鋼(やすきはがね)について詳しくご説明いたします。
お話は、武士が闊歩していた昔に遡ります。伝統的製鉄技術を伝える日本刀は、山陰地方の高純度砂鉄を唯一の素材として作られてきました。その伝統をもとに、いまでも高級な和刃物には安来鋼が使われています。安来鋼は、出雲特産の砂鉄から鉄を得る伝統的な和鋼造りの技術を持っていた雲伯鉄鋼合資会社を、昭和31年に日立金属株式会社が吸収して今に至っています。日本全国の鍛治が使う安来鋼といえば、日立金属株式会社の安来工場で生産された鋼を指すというわけです。
通常、製鉄所というと、巨大工場のイメージですが、安来は、せいぜい1トンから10数トン程度の小型の炉で千種類を越える少量多品種の鋼を生産しています。鉄は、配合する成分と量を変えることにより、無限のバリエーションとして製品化されます。その中から、使用目的に合致した素材が様々なかたちで用いられているのです。
  • 青二、青一、白二

■寒山拾得・尺一青二包丁

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日立金属では、こうして出来た製品を識別するために、「黄紙、白紙、青紙」という愛称で呼び、さらに炭素の量に応じて一号〜三号までの等級を与えているというわけです。これが俗にいう「青二」「青一」「白二」の意味です。こうして、「青二」「青一「白二」という呼び方が包丁の素材をあらわす言葉として広く定着しました。
等級\愛称青紙白紙黄紙
一号×
二号
三号×
これらの差は、素材として不純物を少なくしていき、焼き入れ鍛造をしやすくしたものほど高級な製品となります。
黄紙は、鋤(すき)、鍬(くわ)などの農具や鋸(のこぎり)、ハサミなど、切れ味よりも刃こぼれのしにくさが求められる製品に用いられます。
高い硬度を持つ白紙は、包丁、小刀、鉋(かんな)、剃刃などに使われます。切れ味もよく調理人でも手軽に研ぐことができるので、そば切り包丁、出刃、柳刃として使いやすい鋼材です。
そして、白紙よりもさらに硬度が高い青紙はタングステンを含む高級鋼で、良質の刃物に使われます。高級そば切り包丁には、この純度の高い青紙が用いられます。その理由は、刃が完璧な直線となっているそば切り包丁は、330mmや360mmもある長さとあいまって、研ぐために専門の大型砥石や熟練の技術が求められます。つまり、気軽に研ぐことができないために「永切れ」という長期間にわたって切れ味を維持する特性が求められ、それを備えた青紙が蕎麦店の業務用包丁のスタンダードになったのです。
青二を正しく使えば、毎日大量の麺を切っても、数年間は研ぎ直さずに使い続けることができるというわけです。
各色には、一号から三号までの等級が与えられています。黄紙にはそもそも一号がありません。
また白紙に一号はありますが、切れ味のわりにもろすぎて刃こぼれをおこし、実用的ではないので、あまり用いられません。つまり数千種類ともいわれる豊富なラインアップのなかでもそば切り包丁に使われる鋼は「白二」「青二」「青一」の三種類だけです。
白二と青二の差はすでにご説明した通りです。
青一とは、青二に硬さをもたらす炭素の含有量を加えて、さらに永切れ特性を高めたものです。ただし、硬さが増したということは、永切れと引き換えにもろさが増したということを意味しますので、包丁を正しく使えるエキスパート専用の鋼材になります。それゆえ、青一を所有しているというだけで、包丁の腕前がわかってしまうということになります。蕎麦のプロとして頂点を極めたら所有したいステイタス、それが青紙一号のそば切り包丁という逸品です。
  • 青二、白二、青一、白一は一体何が違うのでしょうか

■寒山拾得・豹型尺一青一包丁

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もう少し図を交えて整理してみます。
白紙は、基本的には不純物を取り除いた純粋な炭素鋼で、打ちもの仕事による鍛造と熱処理によって、切れ味が良く研ぎ易い刃物のため格好の素材です。白紙が基本ですが、そこにタングステンやクロムを添加して熱処理特性及び耐摩耗性を改善したのが青紙です。切れ味が長持ちする素材というわけです。
一号と二号(と、三号)の事ですが、刃物の基本である白二を中心に説明します。図のように、白二鋼にタングステンとクロムを混ぜると青二になります。タングステンとクロムを混ぜることで切れ味が上がり、耐摩耗性、すなわち切れ味の持続が改善します。一方、白二に炭素を加えると白一になり、青二に炭素を加えると青一になります。これらのメリット、デメリットは、すでに述べたとおりになります。
W=タングステン  Cr=クロム  C=炭素(カーボン) yasukisteels.jpg

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